はじめに
最近、コメや野菜などの農作物の価格が上がっています。
背景には、農業資材や燃料の高騰、担い手不足、高齢化といった問題があり、農村はこれまで以上にピンチを迎えている状況です。
そんな中で、農業は「食料を作る」以外にも大事な役割を果たしています。
たとえば田んぼは大雨のときに水をためて洪水を防ぎ、棚田や畦(あぜ)は土砂崩れを防ぐ。水路やため池は魚や鳥、虫のすみかになり、棚田の景観や農村の祭りは地域の文化を残しています。
こうした“副産物的な働き”をまとめて「多面的機能」と呼びます。
農業は食料だけでなく、地域社会を支える多面的な役割を持っている。その価値を守るため、国や自治体はいくつかの制度を用意しています。
今回は、その代表格である
多面的機能支払交付金
中山間地域等直接支払交付金
最適土地利用総合対策(最適整備構想)
の3つを取り上げて、まずは全体を比較してみます。
多面的機能支払交付金
農業・農村の多面的機能を守るための制度。土地改良事業で作った排水路など、施設を維持するための活動に支払われる交付金です。
集落が協定を結び、草刈り・水路や農道の補修・景観形成などの活動に交付金を活用できます。参加者への日当や資材費に使えるのも特徴です。
👉 詳しくはこちら:多面的機能支払交付金
中山間地域等直接支払交付金
傾斜地や条件不利地で農業を続けることを支援する制度です。
集落協定を前提に、面積に応じて交付金が支払われます。「農業をやめないこと」そのものを価値として認めている点が大きな特徴です。
さらに、高齢化に配慮した、より取り組みやすい制度へと見直され、令和7年度からは第6期対策として新たなスタートを切りました。
👉 詳しくはこちら:中山間地域等直接支払交付金
最適土地利用総合対策(最適整備構想)
最適整備構想は、地域ごとに「守るべき農地」と「粗放的に維持する農地」を区分し、将来の営農構想を描いて支援する制度です。
- ソフト面:構想策定、話し合い、営農体制づくり
- ハード面:農業用水路、農道、区画整理、ため池などの基盤整備
ソフトとハードを組み合わせて取り組める点が特徴で、特に「粗放的な農地利用」にも支援が行われ、耕作放棄地の防止や農地維持を進めることが個人的には画期的だなと思っています。
農業を支えるための基盤整備だけでなく、柔軟な農地利用方法の見直しも行い、持続可能な農業を目指します。
👉 詳しくはこちら:農林水産省 最適土地利用総合対策
地域計画の目標地図との違い
最適整備構想に似たものに、地域計画の目標地図があります。地域の方々で集まって、話し合いを行い内容を決定するという点で似ています。最適整備構想は、農地に関する最適な利用を支援するための制度ですが、地域計画の目標地図は地域全体の発展の方向性を示すものです。
両者は異なるものですが、地域計画の目標地図が最適整備構想に影響を与えるため、両者を密接に関連づけて考える必要があります。
地域計画の目標地図
目的:地域計画の中で、将来の地域農業の在り方や、地域の農地の効率的かつ総合的な利用を図るために誰がどの農地を利用していくのかを一筆ごとに定めた地図のことです。
内容:
- 地域の農業の将来像を描くための具体的な目標や方向性を示す地図
- 農地の効率的かつ総合的な利用を図るための指針となるもの
特徴:地域の農業の発展に向けたマスタープランとなるものであり、地域の農業の情勢の変化に対応する必要がある点から、おおむね5年ごとに、その後の10年間について定めることが推奨されています。
まとめ
多面的機能支払交付金は、農業が持つ多面的な社会的機能を維持するために支援を行うもので、農業が地域に与える利益の維持を目的にしています。
中山間地域等直接支払交付金は、農業の継続そのものを支援するための交付金で、維持管理に関連する活動に支援が出ます。
| 事業名 | 趣旨 | 対象・仕組み | 特徴 | 詳細リンク |
|---|---|---|---|---|
| 多面的機能支払交付金 | 農村の多面的機能を守る | 集落協定、地域組織 | 草刈り・補修・景観形成、日当や資材費に充当可 | 農林水産省 |
| 中山間地域等直接支払交付金 | 条件不利地で農業を続ける | 傾斜地集落、協定必須 | 「やめないこと」に価値を認め交付。令和7年度から第6期対策が開始 | 農林水産省 |
| 最適土地利用総合対策 | 守る農地・粗放農地を区分し最適利用 | 地域計画、ソフト+ハード整備 | 粗放的営農も交付対象、基盤整備も実施可、複数年対応も可 | 農林水産省 |
おわりに
「農村を支える制度」とひとくちに言っても、それぞれに狙いや設計思想が異なります。
- 多面は「地域の基盤(施設)を守る」
- 中山間は「やめない営農を支える」+「高齢化に配慮し第6期でさらに進化」
- 最適は「ソフトとハードを組み合わせて将来像を描く」
こう整理すると違いが見えやすくなります。
次回からは、それぞれの制度を1つずつ深掘りして紹介していきます。


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