第1回 土地改良区の設立 ― 検査の入口として

土地改良区

先日、土地改良区の検査に立ち会いました。
マニュアルに沿って「この書類はある?」「日付は期日内?」と確認していくのですが、正直、そのときは根拠条文との紐づけまでできていませんでした。

検査のあと、改めて土地改良法をめくってみると、「なるほど、体系的にみるとこうななのか!」と少しずつ仕組みが見えてきました。
このブログでは、そんな私の“気づき”を整理しながら、農業や農村整備に関わる制度を初心者でも分かるように紹介していきます。


土地改良区とは?

土地改良区は、農業用水路や圃場整備を担う公法人です(法第10条で設立認可、法第13条で法人格)。

ここでいう「公法人」とは、国や地方公共団体に準じて、特別の法律に基づいて設立され、公共性の高い事業を担う法人のこと。土地改良区は「土地改良法」に根拠があり、公共の農業インフラを管理するために設立されるので、この公法人に分類されます。

任意団体のように勝手に作ったり解散したりはできず、必ず知事の認可(法第10条)を経て成立し、ルールが厳格に決められています。だからこそ検査(法第132条・第133条)の対象にもなるのです。

私は土地改良法132条に基づき、知事の権限に基づき、担当職員として検査を行ったのでした。


設立までの流れ(法第7条〜第10条)

土地改良区をつくるには、まず農地の所有者や耕作者といった「3条資格者」(法第3条)が発起人になります。

  1. 発起人が設立計画をまとめ、知事に申請(法第7条)
  2. 公告・縦覧や意見提出の手続(法第8条・第9条)
  3. 知事が審査し、設立を認可(法第10条1項)
  4. 土地改良区は、知事の認可により成立します(法第10条2項)。その後に公告が行われますが、成立の効果自体は認可の時点で生じます。ただし公告前は第三者に対抗できない(第10条4項)

こうして、初めて土地改良区は法律上の団体としてスタートできます。


定款と規約の違い

土地改良区を設立する際に必ず作らなければならないのが 定款 です(法第16条)。

定款には、次のような事項を必ず記載しなければなりません。

  1. 名称及び認可番号
  2. 地区
  3. 事業
  4. 事務所の所在地
  5. 経費の分担に関する事項
  6. 役員の定数、任期、職務の分担及び選挙に関する事項
  7. 事業年度
  8. 公告の方法

これは土地改良区の根幹となるルールで、いわば「土地改良区の憲法」です。後から変更する場合も、総会の決議と知事の認可(法第30条2項、法第33条)が必要になります。

さらに、定款で「規約に委ねる」とされた事項については、別途 規約 を定めることができます(法第17条)。規約では、たとえば次のような細かい運営ルールを決めるのが一般的です。

  • 総会や総代会の進め方
  • 業務執行や会計処理の方法
  • 役員の職務分担
  • 組合員や准組合員に関する取り扱い

  • 定款(法第16条)
    • 名称、地区の範囲、事業内容、役員数などのほか、費用分担に関する事項も必須。
    • 変更には総会の特別決議+知事認可が必要。結構重い。(法第30条2項、法第33条)。
    • 学校でいう「校則」、会社でいう「定款」にあたる基本ルール。
  • 規約(法第17条)
    • 定款で「規約に委ねる」とされた事項を、さらに細かく定める。
    • たとえば総会の運営方法や、帳簿の扱い、事務処理の細部など。
    • 総会の議決で変更可能(法第30条)。
    • クラスの「掃除当番表」や会社の「就業規則」に近い日常ルール。

👉 つまり、定款は“憲法”レベル、規約は“細則”レベルです。


設立の時点で“検査”は始まっている

私の担当している範囲では、実務者から見ると「書類を揃えて申請(法第7条)して、知事から認可(法第10条)をもらう」だけの事務手続きに見えます。

でも法律の視点で見ると、これは県が最初に監督権限を行使している場面です(法第132条)。
定款(法第16条)に必要なことが書かれているか、地区の範囲が妥当か――知事が審査しているからこそ、公法人としての土地改良区が成り立つのです。

つまり、設立=ただの申請ではなく、最初の検査ととらえることができると思います。


まとめ

  1. 受益者資格(法第3条)を持つ人々が集まって、土地改良区設立を発起する
  2. 知事に申請(法第7条)→認可(法第10条)→公告で成立
  3. 土地改良区は公法人(法第13条)であり、公共性の高い事業を担う
  4. 定款(法第16条)は「憲法」、規約(法第17条)は「細則」
  5. 定款変更は重い。総会の議決を経て知事の認可が必要。(法第30条2項、法第33条)
  6. 規約の変更は総会の議決でOK(法第30条)
  7. 設立認可は、実務者には申請に見えるが、法的には県の最初の検査(法第132条)
  8. 設立後も、行政による検査(法第132条)や、組合員からの請求による検査(法第133条)があり、継続的に監督を受ける

次回は「土地改良区の管理」。役員(法第18条)や総会(法第22条)といった内部の動きを、検査の視点で整理していきます。


本記事で登場した主な条文

  • 受益者資格 … 土地改良法 第3条
  • 設立の申請 … 第7条
  • 公告・縦覧 … 第8条
  • 異議申出 … 第9条
  • 設立認可・成立… 第10条
  • 法人格 … 第13条
  • 定款 … 第16条
  • 規約 … 第17条
  • 定款変更 … 第30条2項
  • 規約変更 … 第30条
  • 検査(行政による) … 第132条
  • 検査(組合員請求による) … 第133条

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