“やめないこと”に価値をおく、中山間地域等直接支払制度

農村振興(ソフト)

(農村を支える3つの秘密兵器・第3回)

はじめに

平地より厳しい条件の中山間地域。棚田が斜面に広がり、区画は小さく機械も入りにくい。
ひとつひとつの作業に、時間も体力もぎゅっと使う。
これが中山間地域のリアル

実は、日本の 耕地面積のおよそ38%(約4割)が中山間地域で占められており、農業産出額や農家数も同様に約4割にのぼります。日本の農業を支えてきた要の存在です。

中山間地域等とは?

でも、条件が不利すぎて、「もう農業、やめた方が楽じゃない?」
そんな声が聞こえてきそうです。しかし、誰も耕さなければ農地は荒れ、集落の記憶も、美しい棚田の景観(全部ひっくるめて農村の多面的機能)も消えてしまう…「きついけど、大事な場所」。これが中山間地域です。


中山間地域等直接支払制度とは?

そんな地域で農業を続ける人を応援するのが、中山間地域等直接支払交付金

  • 対象:条件不利な中山間地域の農地
  • 条件:集落で「少なくとも5年間は続けます」と約束した集落協定を締結
  • 交付内容:草刈り、水路や農道の維持管理などにかかる経費を支援

つまり、
「農業をやめない」ことそのものに価値を認め、維持管理作業に交付金を出す制度です。

中山間地域等直接支払制度:農林水産省

-中山間地域を守るみなさまを支援します

似たような作業(草刈り・水路管理など)に「なぜ制度が2つあるの?」

「協定?多面のときもあったよね?」
「は?作業内容おなじじゃない?」
──そう思った方へ。はい、そうです。ただし、対象農地や制度の目的が違います

  • 多面的機能支払交付金(多面)
    対象:平地を含む幅広い農村地域の農地や施設
    目的:農村の環境やインフラを守ること
    協定の役割:「どの作業をどうやって進めるか」を確認する“作業マニュアル”のような役割
  • 中山間直払
    対象:傾斜地や小区画など条件不利な中山間地域の農地
    目的:農業を続けること自体に価値を置く
    協定の役割:「営農をやめない」という継続の約束そのもの
比較軸多面的機能支払交付金(多面)中山間直払
対象農地の条件平地を含む幅広い農村地域の農地・施設(水路や農道など)傾斜地や小区画など、条件不利な中山間地域の農地
制度の目的農村の環境やインフラを守る農業を「続けること」自体に価値を認める
協定の役割どんな作業をどう進めるかを確認する“作業マニュアル”「営農をやめない」という継続の約束そのもの

ケースで考える「どんな地域に合うか」

  • 中山間直払が合う地域
    • 傾斜や小区画など条件不利な農地が多い
    • 「やめないで続ける」こと自体を支えたい
    • 農地の維持活動に加え、営農そのものを継続する意思がある
  • 多面が合う地域
    • 平地や比較的条件のよい農地も含まれる
    • 主に水路や農道など施設の維持管理を重点に置きたい
    • 景観形成や環境保全活動など、農地周辺の暮らしに直結する取り組みをしたい

地域の課題に合った制度を選ぶことが重要です。


⚠ 注意点

  • 似た作業内容でも、制度趣旨が違うため、活動計画を立てるときに「どちらに申請するか」を整理する必要があります。
  • どちらの制度も「協定に基づく活動」を前提にしているため、形だけの計画ではなく、実際に地域で動ける体制を整えることが大切です。
  • 継続義務(例えば中山間直払の5年など)を軽く見ると、後で返還リスクにつながる可能性もあるので要注意です。

みどりチェックシートの導入

さらに、第6期(令和7年度~11年度)からは「みどりチェックシート」が必須になりました

みどりチェックシート解説書

  • 目的:農地の維持管理活動が環境に悪影響を与えないかをチェックする
  • 流れ:協定に添付して提出 → 毎年活動を振り返り → 必要に応じて修正・改善
  • イメージ:いわば「農業版・健康診断票」。
    草刈りのしすぎで斜面が崩れてない?水路は生き物に配慮できてる?──そんなことを確認します。

第6期でどう変わった?

第6期制度では、「続けやすさ」を重視して加算措置が追加されました。

  • ネットワーク加算:複数集落が連携して取り組む場合
  • スマート農業加算:スマート農業による作業の省力化・効率化の取組を行う場合

これらによって、「続ける意思」がより評価される仕組みになっています。


まとめ

中山間直払は、「農業をやめない」という営農継続そのものを評価する制度です。

  • 多面=農村インフラを守る制度(協定=活動計画の確認)
  • 中山間直払=営農継続を守る制度(協定=続ける約束)
  • みどりチェックシート=活動が環境に配慮できているかを点検するツール

「やめないことに意味がある」──これが中山間直払の一番の特徴です。
草刈りの汗も、水路掃除の泥も、すべてが「未来につなぐ営農」なんですね。


👉 次回は第4回、「全部は守れない。その発想から生まれた最適整備構想」を紹介します。

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